「歳を取ると眠れなくなるのは、仕方ない」
この言葉、聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。50代後半の私も、その一人です。
夜中にトイレで目が覚めるたびに、頭のどこかで「歳だから仕方ないか」と思っていました。便利な言葉です。理由を考えなくても、そこで話が終わってくれますから。
でも、ふと思ったのです。この「仕方ない」は、いったい何を根拠に言われているのでしょうか。

世間で言われている「加齢と睡眠」
まず、世間で言われている「加齢と睡眠」のイメージを整理してみます。
歳を取ると、
- 朝が早くなる(「年寄りは早起き」)
- 夜中に何度も目が覚める
- 眠りが浅くなって、長く眠れない
- 若い頃のように、どっしり寝られなくなる
並べてみると、この話は二つの部分でできています。
ひとつは、「歳を取ると、眠りが変わる」という部分。もうひとつは、「だから、どうにもならない」という部分です。
「仕方ない」という言葉は、実は後ろの部分を含んでいます。ただ、その前に、前半が本当なのかを確かめておきたいところです。
「10年で10分」という数字
「歳を取ると、睡眠は短く、浅くなる」。まずは数字で確かめてみます。
手がかりにしたのは、2004年に発表された大規模な分析(メタ分析)です。5歳から102歳までの、約3,600人分の睡眠データをまとめたもので、睡眠の教本や一般書籍でも、土台として繰り返し登場します。
大人のデータで示された、平均的な傾向はこうです。
- 睡眠時間:おおむね10年ごとに、約10分ずつ短くなる
- 夜中に目が覚めている時間:30歳ごろから、10年ごとに約10分ずつ増える
- 深い眠り(徐波睡眠):年齢とともに、少しずつ減っていく
ガクンと落ちるのではなく、じわじわ。「10年で10分」と聞くと、ささやかな数字です。でも、30年、40年と積み重なれば、若い頃と同じ眠りではなくなっていても、不思議ではありません。
ちなみに、この分析には続きがあります。60歳を過ぎると、睡眠時間の減り方がハッキリしなくなり、その後も下がり続けたのは「睡眠効率」(寝床にいる時間のうち、実際に眠っている割合)だけだった、というのです。ずっと同じペースで削られていくわけでは、なさそうです。
ただし、これはあくまで「平均」の話です。自分の眠りが、この線の上にきれいに乗っているとは限りません。
(参考:Ohayon MM, et al. Sleep 2004;27(7):1255–1273)
本を読み比べたら、主張が揃っていなかった
数字は分かりました。では、「だから歳のせいで仕方ない」で終わりなのでしょうか。
手元の本を読み比べてみたところ、主張がきれいはに揃っていませんでした。
- ある本は、生理的な変化だから受け入れて、無理に寝ようとせず、寝床にいる時間を減らすほうがいい、と言います。
- 別の本は、あきらめずに寝具や習慣を見直せば、眠りは取り戻せる、と言います。
- 資格の教本は、年齢よりも個人差のほうが大きく、光や活動量といった生活の工夫で変わる余地がある、と言います。
「受け入れろ」と「あきらめるな」。同じ「加齢」を見ているはずなのに、聞こえ方は真逆です。
読んでいて、イラッとしました。自分で選んで読んだ本なのに、ありがたいと思うより先に「で、受け入れるのか、抗うのか、どっちやねん?」です。
イラッのあとに残ったのは、モヤっでした。
では、どこまでが本当に「歳のせい」で、どこからが「何とかできること」なのでしょうか。
私の場合はどうだったか
では、自分自身はどうだったか?
先に断っておくと、ここから先は記録ではなく、あくまで私の記憶と感覚で書いています。
夜中に目が覚めるようになったのは、50代に入ってすぐでした。きっかけはトイレ。回数が増えたのを実感しました。
54歳のころには、目覚めも突然変わってびっくりでした。ある日を境に、自然に早く目が覚めるようになったのです。30代、40代のころなら、休日だと昼どころか夕方まで平気で寝てたんです。それなのに今は、朝9時には二度寝ができません。
長く寝ても許されるような休日でさえ、長くは眠れません。それでいて昼間はだるい。眠れないのに、横になりっぱなしの休日です。
平日の朝のしんどさも、以前とは違います。「え、さっき寝たばかりじゃん」。そう思うくらい、寝る前の疲れと何も変わらない朝があります。
数字で見れば「10年で10分」。ささやかな変化です。でも休日の寝方で見ると、私の体感はずいぶん大きなものでした。
ただ、ひとつ気づいたことがあります。しんどい朝は、戻った先の会社への思い入れが薄れるほど増えていった気がするのです。50歳で27年勤めた会社を辞め、次に53歳で会社員へ戻ってから、朝のしんどさや、早く目が覚めることが変わったように感じています。
もちろん、歳を重ねた時期とも重なっているので、どちらの影響なのか、私自身には切り分けられません。
これは「歳のせい」だけでは説明できないのでは?そう思うと、先ほどのモヤがまた濃くなりました。
「歳のせい」と「何とかできること」の境目は
「歳のせい」と「何とかできること」の境目は、どこにあるのでしょうか。
本を読み比べても、自分の実感を並べても、まだスッキリしない。正直、今の私には線引きできません。
ただ、ひとつだけ決めたこと。「歳のせい」で話を終わらせるのを、いったんやめてみます。
数字は「10年で10分」。私の体感は、それよりずっと大きい。その差は、歳とは別のところから来ているのかもしれない。だとしたら、そこには手を出せる余地が残っているということ。
このブログでは、その余地をひとつずつ確かめていきます。朝の光、寝具、夜中のトイレ。自分の寝室と生活で試して、良くても悪くても、そのまま書きます。
「寝る前のスマホ」「寝だめ」「食べ物・飲み物」といったよく聞く話も、同じように本と数字にあたって確かめていく予定です。
50代の眠りの基本は、こちらの記事にまとめています。
「50代男性が睡眠を見直して快眠アップデートするための基礎知識」
※つらい不眠が続くときや、日中に強い眠気があるときは、医療機関に相談してください。